ほんとのうた(仮題)
第12章 城崎家の人々
「皆さんのご心配には及びませんよ。確かに故あって、今は職に就いてはいない。が、俺は別に仕事を世話してもらうつもりも、城崎の籍に戻るつもりもありませんから。そんなわけで、増してや将来巻き起こるかもしれない、骨肉の遺産相続争いについても、この場で先に不参加を表明しておきましょう」
やれやれ、全く面倒な連中だよ。いい加減に辟易しする俺を、更に呆れさせたのは初対面となる彼女だった。
「あの、申し訳ありませんが――今のお言葉、もう一度、お願いできますでしょうか?」
「は?」
「一応、言質を取らせていただこうかと」
そう言った香苗さんは、俺に向かってスマホを構えている。どうやら俺の発言を証拠として、動画に残そうとしているらしいのだが……。
「オイ……拓実。ちゃっかり者のお前にお似合いな、良い嫁をもらったじゃないか……」
「いやぁ、それほどでも」
まんざらでもない様子の拓実に、俺は腹の底では思いっきりツッコむのだ。
百パー、皮肉だよ!
と、そんな具合で。
俺の立ち位置に、ついて――少なくとも城崎家との距離感は今までと同様であると、そうはっきりと告げているのであるが……。
しかしながら、今から遡ること十九年前に造反(?)している次男坊の信頼は、地の果てまでに失墜しているらしく。一族が顔を揃えた高級料亭の奥座敷には、疑念に満ちるどんよりと濁った空気が立ち込めた。