ほんとのうた(仮題)
第12章 城崎家の人々
わだかまりは、確かにあった。互いに良い顔を見せなんとなくわかった風にしたって、その全部は消せない。
俺も――きっと親父だって、わかっている。承知しながら、この流れに乗っていた。
既に、許すでも許されるでもなく。そうかと言って、新たに築こうと思えるほどに、そればかりは柔軟なものでもない。
つまりは、いけしゃあしゃあと、俺は言うのだ。
「親父――その内に二人で、酒でも飲もうか」
それに対して――
「それが不味い酒ではないのならば、付き合おう」
親父も臆面もなく、そう応えている。
婆さんの葬儀の時、俺は親父と同席しながらも、結局は言葉を交わすことはなかった。
親父は『新井』の姓を捨てたのだと、俺は思い込んだ。敢えてその姓を自らが名乗ったのも、それに対する反発という形の表れではなかったか。
だが、当の婆さんはといったら――
『仁造はなぁ、精一杯に強がってみせてんのさぁ。それだけだよぉ』
俺の前で一度だけ、自分の息子のことを――やはり、あの目は――気にかけていたのだ。
その時の婆さんの眼差しを思い出せたのだから。今日はこのくらいでいいのだと、俺はそう思うことに決めた。
【第十三章へ続く】