ほんとのうた(仮題)
第12章 城崎家の人々
「願わくば、せっかく俺に逆らったのだ――その甲斐くらいは、見せてもらいたいものだな」
続きそう話した親父の言葉には、悪意は込められていなかった――と、俺は感じる。
「……」
人は歳を取り、角が取れて丸くなるものだとか。俺はこの場にあって、親父の変化をその様に捉えていたわけではない。それでも――
あの時、家を飛び出てまで選んだ女(ひと)と、添い遂げられなかったこと――。
世間的に見れば、どう考えようとも恰好のつけようもない、今の俺の立場とか――。
親父とは本来、そんな弱点を容赦なく抉ってくる男ではなかったか……?
だが、それは誤解であり――そうかと言って、間違いでもなかった。親父は確かに変わったのだろうし、俺も同じではないのだろう。だから、今になって新たに生じていた、それはやはり誤解だった。
今の親父は、穏やかにしている。それでも、その顔を俺に見せようと決めていたわけでもなかろう、と俺は思った。
親父だって本当は迷っていたはず。そこに綻びがなければ、俺が誤解に気づくこともなかったのかもしれない。
すなわち、きっかけを与えてくれたのは、やはり真だ。
「じゃあ、俺の方からも一つ、言わせてくれよ」
それまでの流れを受け、俺は考えてもなかったことを、口にしようとしている。