テキストサイズ

ほんとのうた(仮題)

第13章 あとは終わりゆく、だけ?


 帰ったら、周りは大騒ぎだな。

 忙しすぎて、きっと俺のことなんてソッコーで忘れちまうだろ。

 やりたいこと――歌いたい唄、ちゃんとやってくれよ。

 そうしてそれを、こんな片田舎に住む孤独な男の耳にも、届けてみせろ。

 ずっと、応援しているから――。


 脳裏に浮かんだ幾つもの言葉たちを、俺は端から呑み込んでいた。


「……」


 結局は、無言のままに――。

 ホームに滑り込む流線型の先頭車両を、俺たちは迎え入れてゆく。

 なんだかね。いいことを言いたくなったり、元気づけようとしたり――だとか。

 そんな自分が、迂闊なのだと感じている。否、小賢しくさえ思えて。

 できるだけ、あっさり。きっと、そうやって見送るのが、たぶん今は一番だ。

 今この時は、これっきりではあるけれど……。


 ――プシュー!


 やがて扉が開くと数秒を待って、真は俯き加減にその歩を進めた。

「ちょっと、待てよ」

「――!」

 俺の声に反応し、徐に振り向くが――しかし。

「コレ」

「――?」

 俺が差し出した掌の上を、じっと見つめていた。が、それがなにかと察するにつけ――

「人気歌手が牛丼くさいってのも、なんだしな」

「フン、バーカ!」

 真は失望したように顔を歪め、俺の手から清涼菓子(ミントタブレット)をふんだくった。

 未だ、その笑顔に会えぬままに。

 彼女はついに、電車に乗り込んでいった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ