ほんとのうた(仮題)
第14章 (仮題)
「……!」
その唄声を、詞を耳にして俺は――。
初めて出会った夜、公園。深夜の牛丼屋。
押しかけられた、部屋。仕方なく寝かせた、ベッドの上。
行きつけの、寂れたラーメン屋。
婆さんの墓参り――そこで語り知った、互いのこと。
ショッピングモールでの、珍騒動。
そして思い立つ、無謀な旅立ち。水族館で見かけた、妙な魚。
戯れの海。その後のこと――真の肌の温もり。
息も切れ切れに登った山の景色と、奇跡的な光景――。
とか、とか――詩で語ってないことまで、もっと、ずっと――。
「…………」
呆然と言葉を失った俺の脳裏には、その全ての場面が鮮やかに蘇っていた。
そうして、真は正にその名を以って更に鮮烈に、彼女の真(ほんと)の唄を唄い尽くしていった。