ほんとのうた(仮題)
第15章 たとえば――
※ ※
俺は真とのあの日々を、変に引き摺ってしまう自分を哀れだと、恐れていたのかもしれない。
だが、今は少しだけ、違っていた。
たとえば、ある日の休日のこと――。
たまの休みに相変わらず独り身の俺は、昼近くまで爆睡している。すると――
ピンポーン!
突如、部屋に鳴り響いたのはインターホンの音色だ。
ああ、どうせ、勧誘かなにかだろ……?
そんな風に思い、俺はそれを黙殺しようとするが、しかし――
ダン、ダン、ダン!
容赦なく叩かれ続ける、アパートのドア。
「ああっ、やかましいぞ……」
仕方なくベッドから起き出す、髭面の俺は――
「はい……」
心底面倒そうに開いた、そのドアの向こうになにを見るのだろか。
たとえば、それが――
「うふふ――なぁに、その顔?」
「お、お前……?」
「こら! お前って呼ぶなっていったでしょ」
「……」
すっかり目が覚め、それでいて唖然とするしかない俺に――
「私――来ちゃったよ」
焦がれたその笑顔が、この胸の中に飛び込んでくる。