ほんとのうた(仮題)
第2章 緊急モラトリアム
俺が夏場に愛用している速乾Tシャツ(黒)をルーズに着こなすと、真は長い濡れ髪をバスタオルで拭う。
「――!」
その時に俺の視線を否応なく釘づけにしたのは、その胸元。ゴシゴシと髪を拭く度に、ソレら(二個だし複数形で)が艶めかしく揺れている。
やけにフリーダムな気がするのは、完全なるノーブラ状態であるからだろうと思われ。だとすれば、まさか下も……?
俺の視線が次に、シャツの裾よりはみ出した太腿へ注がれていったことを、誰が責められると言うのだろう。否、誰にも責める権利はないはずである。
つい先ほどまで思慮していたことなど、まるで無意味。それが仕方ないと思えるまでに、兎にも角にも真の姿は魅惑的であり、それでいてあまりに無防備なのだ。
「ふう……」
髪を拭き終えると、誠は吐息を漏らし床にペタンと胡坐をかく。
「……」
黒のTシャツの裾から、微かに覗く白い下着を認めた。流石にノーパンのわけはないが、それはそれで刺激的なチラリズムとなる。
ダメだ……これじゃあ完全に、単なるスケベな中年じゃないかよ……。
「今日は暑いねー。これじゃ、東京とあまり変わらないじゃん」
そんな不平を口に、Tシャツの首元をパタパタとしている真。その度に開かれた胸元が、またなんとも。
「ハハ、そうだよな。じゃあ――と」
流石にそこからは顔を背けると、俺はリモコン片手にエアコンを可動。自らの煩悩を、なんとか誤魔化したかったのだが……。
「あと、喉か乾いちゃった。オジサン――なんかない?」
「オ、オウ――待ってろ、今」
俺は要求されるがまま、いそいそと冷蔵庫の中を確認。一本のペットボトルを取り出し戻ると、それを真に差し出した。
「お茶で、いいか?」
「うん。ありがと」
それを受け取ろうとした真のしなやかな指先が、期せずして俺の手の甲に僅か触れた。