ほんとのうた(仮題)
第2章 緊急モラトリアム
最悪のケースでは、誘拐の容疑でもかけられかねないと考えておくべき。あと、ストーカー扱いされてしまうとか……。
その場合に万一、彼女との肉体関係を結んでいたとすれば、俺にとってそれは後ろ暗いことこの上なしなのだ。
おそらくは自身の身の潔白を、声を大にして世間様に訴える術を失ってしまうだろう。その行為が同意の上であったとしても、なにしろ二人の立場が違い過ぎる。
そうなれば、俺の人生は――ゲーム・オーバー。すなわち俺は絶対に、真に手を出すようなことがあってはならない。
マイナス思考に陥りがちな自分の性格を、これほど賛美したいと感じたことはない。冷静に考える時間があってよかった。真がシャワーを浴びにいってくれなかったら、取り返しのつかない過ちを犯していたかもしれない。
世間の扱いがどうあれ、俺にとって彼女は只の見知らぬ若い女である。出会ったことになんら感慨を覚えるでもなければ、逆に迷惑をかけられ困っている立場だ。
つまり俺にとってはこの状況は、デメリットしかない。先に示した最悪の事態も、決して大げさなものとは言い切れないだろう。
そうなれば問題は、いかにして真を説得するかに尽きよう。あの様な気まぐれな性格(かな?)をしている。熟慮に欠け突飛な行動に出たのものの、きっと彼女だって本心では戸惑っているはずだ。
なんとか得心させ、自分本来の生活に戻るよう導いてやるのが肝要。甚だ面倒ではあるが、ここまで関わってしまったのも、また事実なのだ。
「さて――どうやって、言い聞かせたものかな」
「なんの話?」
その声に思わず肩を竦め、俺は背後を見る。すると――
「あ、棚にあったTシャツ――勝手に借りちゃったからね」
「――!?」
身体からほんのりと湯気を立たせながら――
ドクン――!
真のその姿はまるで容赦なく、またしても中年の心臓に負担をかけてくれるのだった。