ほんとのうた(仮題)
第2章 緊急モラトリアム
ああっ、恥かいた恥かいた恥かいた恥かいた恥かいた――畜生、この野郎めっ!
俺は目的の買い物を果たすと、再びハンドルを握りアパートへ向かう。その最中にありながら、頭の中は先ほどの店における己の姿を掻き消そうと必死だった。
イカン、イカン。安全第一点だな…。
横断歩道を渡ろうと手を挙げた歩行者を見つけ、俺は車を停車する。ゆっくりと渡りつつ、深々と頭を垂れた老婆とその孫らしき姿に、やや心を癒された気分だ。
しかしこの時期の余計な出費は、正直痛い。よく考えれば、なんでこんなに色々と買いそろえてしまったのか。
部屋着とか、いらなかっただろ。あと、歯ブラシとかの日用品やら。甘やかすと本気で居つくぞ、あの女……。
「さて――ホントに、どうすんだよ?」
不意に自問した。
アパートには、もうすぐに到着する。その前に今後、あの真をどう取り扱うのか、自分の考えを決めておかなければならなかった。
もちろん一緒に暮らすなんて選択肢は、あり得ない。昨日までの俺たちは、赤の他人であるのだから、それは当たり前のことだ。
だが、ここまで。すっかりあの手前勝手でマイペースな性格に、やられてしまっているのも事実である。
その上、意識的にも無意識的にもあらゆる角度からなされるお色気攻撃は、独り身の俺の弱点を的確についていて、実に厄介だ。