ほんとのうた(仮題)
第3章 異常なる日常で
「ニセモノの唄……か」
俺はある違和感と共に、真の口にした言葉を繰り返している。
天野ふらののことは、ほとんど知らない。が、真のことならば、例え一日余りの邂逅であっても僅かながら知ってはいた。
天野ふらのという巨大なイメージの塊が、俺の傍らにで眠る真の姿とは食い違って思えた。
彼女が綴る恋愛に纏わる詩は、それを元気に歌い上げる『天野ふらの』のハツラツとしたキャラにマッチして実に爽快に感じる。だが一度穿った目を差し向ければ、それらはどこか甘ったるく上辺を滑り、決して芯には届き得ないもの――。
「――って、俺になにがわかるってんだよ?」
呆れたように、思わず呟く。
俺のような只の中年男が、そもそもその善し悪しを推し量る術などないのだ。しかし、それでも恐れずに言うのなら、『天野ふらの』と真の発する言葉には、違いを感じている――?
俺が感じるこの違和感こそが、真の抱えるジレンマの正体なのだろうか。
「……」
しかしながら、高がネットで得た情報でなにかを悟ったような気になるのは、あまりにも早計だろう。
一応、頭の片隅には置くことにするが、それ以上なにかを調べ上げることには抵抗を感じた。
そうして、パソコンを閉じようとした時である。
「ん――?」
俺は気になる文字列に、期せずして目を止める。
『天野ふらの失踪に向かう原因に、義母である個人事務所代表との確執が』
「……」
それが気にかかり、そのネット記事を開こうとしてマウスを動かす。
が――
「いや……」
俺はそっと首を振り、そのままネットを切断した。
おそらく憶測を以って綴られた、それは単なるネットニュースであろう。先にも言ったが、そんなものを鵜呑みにして、真に対する妙な先入観を抱くのは良くないと感じる。
気にはなる――だが今は、それよりも。
「一体、俺がなにをしてやれるのか……?」
俺はゴロンと身を横たえ、そんなことを呟いてみた。
人のことを心配できる身分かよ、とは当然ながらに思う。それでも、ほんの些細でもいい。
真のために、俺がしてやれること……。
思い至る筈もない、そんなことを考えながら。俺はそのまま、眠りの最中へと墜ちてゆくのだった――。
【第四章へ続く】