ほんとのうた(仮題)
第4章 重ね合うもの
夜、思い至った心境が、しかし次の朝、全く覆されてしまうことは割とよくあることだと思う。
なんのことかと言えば、別に大した話でもない。深い意味もありはしない。只、わかってることがあるとすれば、それは夜と朝とでは気分というものが180度、違ってることが儘あり得るということ。
なにかを決意するのは、夜であることが多く。その決意がついえるのは、大抵が朝である。それは俺の持論だが、例えばこんな経験は誰しも心当たりの一つくらいあるのではないか。
健康のために、毎朝ジョギングをしようと決意する。前の晩、やる気満々にウェアとシューズの準備をし、アラームを朝六時にセット。しかし次の朝、けたたましく鳴り響く目覚まし時計を止め「明日からでいいか」と呟くや、そのまま二度寝――なんて。
そんなこと、この歳までなんら成し遂げることなく生きていた俺のような男にしてみれば、数多繰り返しているから最早反省するにも及ばない。
まあ、くどくどと述べた理屈は、全て言い訳と思ってもらえれば、それで間違いがないのだ。
すなわち、そんなわけで――ある決意から、明けて次の朝のこと。
「うぅ……ん」
なんとも悩ましい音色に耳を擽られ、俺は目を覚ました。
「――!」
目の前にある顔の意外なまでの近さに、先ずは驚くより他はなかろう。
ち、近い……というか。どうして、こうなってる……?
俺は床で身体を横にして、(もちろん単独で)寝入っていたはず。随分と酔っていた割には、比較的気分よく寝ていた気がしていたのだが……。
その俺に顔を突き合わせているのは、ベッドの上で寝ていたはずの真。その寝顔が鼻先が触れそうなまでの近距離にある。目の焦点が合わず、薄らとぼやけて見えるほどだった。
しかもちゃっかり(?)俺の左腕を枕代わりとして使用中。二の腕の辺りは既に、じんわりと痺れつつある。