ほんとのうた(仮題)
第4章 重ね合うもの
「ほらぁ、またなにか難しく考えてるんでしょ。もっと簡単でいいのに」
「簡単とは……?」
「歳の差だとか、私が何者だとか。そんなこと、今はどうでもいいでしょう。とりあえず、私はさ――」
どこか意味ありげに向けられた眼差しに、俺はやや怯んで。
「な、なんだよ……?」
すると真は、いともあっさりとこんなことを言ったのだ。
「オジサンのこと、好きかもね」
「は……?」
またしてもからかわれたと感じ、俺は呆れた顔を浮かべる。
「『好き』とか『嫌い』とか、言葉にはしないって……昨日は、そう言ってなかったか?」
「苦手だって言ったの。それは、そうなんだけども――」
真はそう言って、なにかを思うように宙を見つめ。そうしてから、俺の顔を見ると健やかに微笑んで、もう一度言った。
「やっぱり、オジサンは好き」
「……」
やっぱ、わかんねーな……コイツは。俺はため息を吐きながらも、一方で心の片隅を擽られた気がした。
そりゃ「好き」だなんて言われて悪い気はしないが、かといってそれで舞い上がってしまうほど能天気にもなれない。
当然ながら真だって、そう深い意味で言っているわけはないのだ。
そう思いながらも期せずして上気した顔を、真に見られないように背を向く。
そんな戸惑いと妙な高揚感にまみえながら、俺の真との一日がまた始まろうとしていた。