ほんとのうた(仮題)
第4章 重ね合うもの
「すっごく、嬉しかったよ。その想いがいつも心の真ん中にあって、だから私は自然とその道を辿っていたんだと思う」
「……」
「私が唄おうとしたのは、結局……おばあちゃんに褒められたかったから、なんだね」
「真――」
「なに?」
「いや……」
俺は「おばあちゃんは、今?」と訊こうとし、それを無粋と感じると口を噤んだ。
『おばあちゃん……ごめんね……』
俺の祖母の墓前での先程の真の言葉に、遠慮していたのだった。
家族の拠り所が、祖母である点については俺たちは似ているかもしれない。だが、その歩んだ人生は、やはりあまりに違ってた。
倍近くの時を生きていながら情けないことではあるが、俺は彼女に気の利いたことの一つも言ってやれないのである。
だから――
「ヨシ――午後はドライブと洒落こむとするか。どこか行きたい場所、あるのか?」
真を車に乗せると、俺は柄でもないことを言ってる。
「え、いいの?」
「ああ、今日はそんな気分だろ。但し、あまり一目の気にならない場所で、夕方までに戻れる範囲でな」
「アハハ! じゃあね――」
とりあえず、今の彼女は笑っていた。それは『天野ふらの』ではなく『真』としての笑顔だ。
だから、ともすれば些か変だとも思う。が、俺はもう少しの間、そんな彼女を見つめてみたいと感じていた。すなわちそれは、俺のエゴであろう。
それならば、仕方がないと諦めるしかなかった。俺が自らの意志でそうする以上は、その後にどんな想いに苛まれたとしても、それには耐えるしかない。
信号で停車すると、風に吹かれている横顔を俺はちらりと見た。
「なに、オジサン?」
「ん……別に」
目が合ったことだけに、ドキッとして言葉を濁す。
あーあ……これはいよいよ、ヤバいのかも。
そう思いながらも俺は一人、そっと苦笑するのだった。
平日の空いている道路は、彼方まで見渡せるように真っ直ぐと伸びる。俺は真を隣に乗せ、オンボロな車のアクセルを踏んだ。
【第五章へ続く】