ほんとのうた(仮題)
第5章 騒々しい景色の中で
とある日曜日の午後の部屋には、晴天の強い陽射しが差し込んでいた。
職を失ってから初めての週末。既に曜日の感覚を失いつつある俺には、なんら感慨もまたらそうとしない。それでも平日に比べたのなら、こうして周囲の視線を気にすることなく呑気にベランダで布団を干せるだけ、まだましだ。
「ああ、もう――最悪!」
「……」
耳にした声を、俺はとりあえず一旦、聞き流している。
狭いベランダの縁に毛布を並べる。真のヤツにベッドを譲り、すっかり床で寝るのが習慣となってしまったが、夏場とはいえ流石に身体には良くない。腰に張りを覚えたことも手伝い、久しく収納してあった敷布団を引っ張り出すと、それも干した。
さてと、次は洗濯物――と思った時、また大声が響く。
「オジサン、ちょっと来てよぉ!」
はあ、と俺はため息をつく。
干そうとして手にした洗濯物を籠に戻すと、部屋の中に戻り声のした方に赴く。そして、実に面倒そうにこう訊ねた。
「どうかしたのか?」
俺が立つのは閉ざされた扉の前。そこはトイレだった。
その中で用を足している最中であろう、真は言う。
「なんか、急に電球が切れたの!」
部屋のトイレには換気口があるだけで窓はない。そういう事情なら昼間とはいえ、その個室は闇と変わる。
「わかった。電球なら買い置きがある。後で代えるよ」
そんなことでイチイチ大騒ぎしやがって。俺は呆れ顔を浮べ、やりかけの洗濯物を干しに、ベランダへ戻ろうとした。