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本気になんかならない

第19章 中秋

多少の冷やかし声が混じる拍手のなか、
俺がわずかに顔をそむけるように動くと
北里は離れた。

うつむいて、影が降り
表情が見えない。

おい、客席に背中向けてるぞ?
とは思ったけど

今頃、肩を震わすので
落ちつくかと、俺は北里の手を握る。

「とてもよかったよ。テナーも、歌も」

そう言って俺は椅子から立った。

だけど北里はそこから、動こうとしない。

北里を腕に抱くと
「っ…っ…」と漏れるような声が聞こえ

「どうしたんだよ?緊張しすぎた?」

もしかして、ヴォーカルは初めてか?
でも堂々と、そして可愛く歌えていたはず。

俺も余裕でピアノを弾けていたら
もっと北里の声を聴けたのに

いきなりの本番で
自分の演奏に必死だったから、、

そこは、残念。。

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