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本気になんかならない

第28章 green flowers

なのに、やっぱり
ないっ!

浴室から出てすぐに見あげた俺は、予想どおりで嬉しくなってしまう。
これからも下着一式、持ってこなきゃな。

店内に戻ると、先ほどまで並んでいた料理が片付けられていて、俺と入れちがいに貴志が風呂に行って。

「写真、返してください」

「返す?もとからオレのものなのに」

「被写体は俺なんですよね?…」

と、和史さんの視線の先にあったフォトフレームに俺も目がいく。

「めっちゃ可愛いだろ」

「いつの間に…」

それは、グラタン仕込み中の俺だった。
それだけじゃなく、その写真は、そこらに花を散らしてデコられていて。

ああ、可愛いって、このことか。
安心と同時に、紛らわしい細工にため息。

フォトフレームから写真を抜きとって、グシャッてなるのも構わずポケットに突っこんだ。

「あーあ、力作がぁ」
和史さんはわざとらしく残念がってみせるけど、目が笑ってるし。

それから。写真を取りかえす気もないようで、彼は
「そこ、座って」
と俺に指図して、1本のボトルを携えて、やって来る。

口を結んで、顎を引いて、きりっと引きしまった無駄のない動き。
時間を止めたような、その空間が俺の前にあって。

グラスに静かに液体を注ぎ、泡が落ちつき
もう少し注ぎ、トーションで拭い。
そして、告げた。

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