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本気になんかならない

第30章 初デート

北里は、目を閉じて
荒いような深いような呼吸をして

両サイドのレバーをかたく握りしめていた。

俺、どうしたら…


声をかけてあげてと言われていたことを思いだして
頭付近にさらに寄るけど、、

何て声をかけたら…


今、一番に彼女に言いたいことは

"旦那さん、いつ来るの?"

なんて悠長なこと、聞けない……。

というか、汗なのか涙なのかわからないくらい
北里の顏が濡れていて

「拭いてもいいですか?」

そこにいた看護師さんだか助産師さんだかに断って
彼女の顏にそっとハンカチを当てた。

北里は気づいていないのか
うっすらと目を開けてくれたんだけど、
俺を認めたかどうかわからないうちに閉じられ

とっても痛そうに顔をしかめる。

「がんばれ…。
赤ちゃんにもうすぐ会えるぞ。
痛いよな…。がんばれ…もうちょっとだ…」

どんな言葉を出したらいいかわからず
俺は呪文のように唱えて

ふたたび滝のように流れる彼女の汗を拭った。

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