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本気になんかならない

第31章 スクロール

尋ねていくうちに、わかる。
和史さんの仕業だと。

「あいつ、言ってたんだけどなぁ。
お前と紀ちゃんは、実は…って。
だから俺、生まれるのはお前の子だと」

「そんなデマカセ、信じないでくださいっ」

実は…って何だよ?実は…って!

「真実味があったんだよ。
俺も昨日の産婦人科入りを目撃してるし。
なのに、違う野郎の子ども?
なのに、朝まで付きそったのか?……」

展開を読んだ千尋さんは、俺に気の毒そうな目を向けた。
そんな同情を受けるような心境じゃないし、それに。
その気遣うような姿勢が複雑にこそばくて、俺はかえって明るく振るまった。

「落ちこんでなんかいませんって。
本番前の予行演習みたいなものですよ」

だけど、それが逆にいけなかったようで
千尋さんは、そんな俺の肩をなぐさめるように叩く。

「うん、うん、そうだよな。
いつでも話、聞くからな。
…じゃあ、あと2年はここで働くんだよな?」

まだまだ傷心な俺と思われてるみたいだけど話題がそれたので、そちらに乗っかった。

「俺、来年度卒業目指してるんです。
だから、あと1年…でも、辞めても、ときどきは遊びに来たいです」

「そっかぁ。ま。和君、気に入られてるから、嫌でも和史が呼びだすだろうけどね。
さ、朝食ができてるだろうし、食べよ?まだだろ?」

「……ありがたいです」

早朝に食べたおにぎりは、なかったことにして、俺は千尋さんのあとを追った。

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