テキストサイズ

本気になんかならない

第31章 スクロール

プレゼントを配り終えた俺は
事務所に戻って、「おつかれさま」と言いあって。

サンタの扮装をといてるときに、
天然パーマのベテラントナカイに尋ねられる。

「宮石君って、サナちゃんのお母さんと知りあい?
たしか、あの人は高校教師よね?だったら、教え子とか?」

「まあ、そんなところです」

その年数計算だと、俺は高卒だなと考えながらうなずいた。

「へえ、教師と生徒かあ」

そう言って、意味ありげな笑顔で俺の顔を覗いてくるので
気をそらすためにも俺は、
自分のカバンに入っていた水筒に手を伸ばす。

飲み口を口に持っていこうとしたところで
ふたたびの質問がきた。

「もしかして、今も好きなの?」

とたん、ぐっとノドがつかえて
まだ飲んでないのにむせ返りそうになった。

「っ!変なこと聞かないでください、突然」

「ふっふ。宮石君って、すぐ顔に出るのね」

…なわけないだろ?
この人、俺と北里の過去を知ってる人物の母親とか?
疑わしいのは、もっちーに和史さんに…バーのマスター?

言葉の意味の含ませかたは和史さんだけど、
和史さんの苗字って…忘れたかも。

でなきゃ、今も好きかどうかなんて
以前、好きだったなんて、
そんなの、一瞬でこの人にわかるわけない。


ということで、俺は尋ねる。

「あの…息子さん、います?」

「いーえ。娘よ?
宮石君、イイオトコだから紹介したいなとか思ってたんだけど。
相手がいるんだったらねぇ」

息子はいない…。
俺は、はずしたばかりのサンタのひげを
もう一度つけ直そうかと考えた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ