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本気になんかならない

第32章 クリスマス会

「これから仕事?バスで?」

声をかける気はないとか言っておいて俺は、
北里と話せることが嬉しくて、

「近いから歩いて。今日が終業式なの」

ほかの親子連れがいないのをいいことに、横断歩道を渡ろうとする北里に駆け寄って、チャンスとばかりに口を開く。

「そうなんだ。あ、弟たちもそう言ってた。。
明日、会えないかな?
渡したいものがあるんだ」

クリスマス前日だから、先約があるかもと思いつつ伺いをたてる。

「明日?いいよ。
サナを預けてるあいだなら。
仕事休みだし」

もらえても仕事のあいま、邪魔にならないよう数分間、と思っていた俺はテンションがさらにあがる。

「え?そうなんだ。じゃあ、えっと
お昼ごはん、一緒に…とかでもいいの?」

「ええ。いいわ」

横断歩道を渡りきる前に、とんとんと話が進む。

このまま彼女を職場まで送りたかったけど、トナカイ先生が戻ってくる気配がなかったので、俺は歩みを緩めた。
すると、彼女も俺にあわせて立ちどまる。

これから仕事で忙しいだろうから、必要事項だけを。
なんて思っておきながら、ずっと彼女を引きとめておきたくなる。

「何を食べたい?」

「うーん、そうね…。お店は和君に任せる」

「わかった。ここで待ちあわせる?」

「自宅に、お願いできる?
前と同じ場所だから。じゃあ、…10時半に。
急ぐので、失礼します」

会話の途中で、別の保護者を見かけた北里は
言葉づかいを丁寧に塗りかえた。

「ああ、よろしく…。
あっ!ポスト、見てください?」

本来なら、手紙出したんだよ?
と伝えかったけど、ほかの保護者に知られちゃマズイのかと察した俺の言葉は変な疑問形となる。
彼女はというと、やや驚いたような表情をしてうなずいた。

そうして彼女が歩き去るのを、旗を振りながら見送って。
さっきまでの緊張が一瞬でふっとんで、
今や踊りだしそうな気分の自分に驚いていた。

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