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take a breather

第22章 Song for me

次のアーティストがスタンバイする前に、俺たちも素早く交代する

時刻は夕方に差し掛かるが、まだまだ太陽の位置は高く、暑い

さっきスポドリを一気飲みしたせいか
全身から汗が噴き出して来た

「翔ちゃん」

隣にいる雅紀が小さな声で俺を呼んだ

「なに?」

「次、智だよ
押されるかもしれないから、気を付けて」

押される?
今日はまだ一度も仕事らしい仕事をしていないが
智の人気はそんなに凄いのか?

少し騒ついていた観客席から、一斉に悲鳴が上がった

『キャー‼︎』

えっ⁉︎マジか?

悲鳴と同時に観客が前のめりになる

これをどう抑えろと?

下手げに抑えようとすればボディータッチしてしまいそうだし…

低い姿勢で両手を大きく広げ、客が前に出ないように制するのが精一杯

これを20分近くやれと?

いや、無理だろ…

内心ヒヤヒヤしていると
演奏が始まった途端、会場に静寂が戻り
前のめりになっていた客たちも
何事もなかったかのように、落ち着きを取り戻した

なんだ、この変わりよう…

不思議に思っていると、智の第一声が耳に入って来た

っ⁉︎

その瞬間、何も考えていないのに
全身が総毛立った

なにこれっ⁉︎

歌声を聴いて鳥肌が立った?
まだ歌い出しだぞ?

こんな事、生まれて初めてだ…
背後から聴こえる彼の透き通った歌声に、耳を奪われる

サビ部分での高音の伸びやかな声に背筋のゾクゾクが止まらない

琴線に触れるとは正にこの事か…

目頭が熱くなり
Tシャツの袖で汗を拭く振りをして
零れ落ちそうになる涙を抑えた

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