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take a breather

第6章 season

智が俺に一歩近づきシャツの襟元にピンバッチを付けた

「今日も桜色なんだな…」

「え?あ…ほんとだ」

意識したわけじゃないけど、Tシャツの上から薄ピンク色のシャツを羽織ってた

薄紅色の中にピンクシルバーの桜が一輪…

「綺麗だな…」

智がポツリと呟いた

「ほんとだね」

襟元から視線を上げると智の視線とぶつかった

智が見ていたのは俺…

「翔…」

智が優しい微笑みを浮かべた

「愛してる…」

狡いなぁ…最後にそれ言うんだ

だったら俺も最後に意地悪言うよ

智の微笑みに応えるように俺も笑った

「智…俺も愛してる…
でも俺、待たないから
これから楽しいキャンパスライフが待ってるのに
いつ帰ってくるかわからない智に縛られたくない」

俺が『待ってる』って言ったら
貴方は俺の存在に縛られる…

それはしたくないから

「…うん、わかってる…
待っててくれなんて言わない。
でも…」

そこで口を閉ざした智

「『でも』なに?」

「いや…いい。次会った時に言うよ」

『次』か…俺たちに『次』はあるのかな…

「智、俺見送りには行かないから」

迷ってたけど、行くのはやめよう

ここから始まった俺たちだからここで終わりにする

「うん」

「最後にひとつお願いしていい?」

「いいよ」

「智から先に帰ってくれる?」

これ以上智と一緒にいたら笑顔で別れられなくなる…

「わかった…それじゃあ元気でな」

智が手を差し出した

「智も…」

その手を握り返すと、智に引き寄せられた

一瞬だけ合わされた唇…

「さよなら、翔…」

智は手を離すと俺に背を向け歩き出した

一度も振り返ることなく立ち去る智を
俺は泣き声を押し殺しながら見送った。

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