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take a breather

第12章 Step and Go

「いらっしゃいませ 大野さん」

「ども…」

行き慣れたカクテルバー

ピアノの生演奏が流れる静かな店
ひとりで飲みたい時は必ずここに来る

「ふふっ…恋人と別れました?」

「…なんでわかるんだよ」

可笑しそうに聞いて来たのは ここのマスターの『マサキ』

年齢は同じくらいなんだけど
カクテルを作る腕は相当なモノらしい…
前に何かの賞を獲ったと他の客が話していた

「だって久しぶりだから ウチに来るの」

バレバレか…

こういった店の店主というのは 人をよく見ているせいか
言わずともバレる事が多い

現に『恋人と別れました?』なんて
人によっては辛い話なのに
俺には笑いながら聞いてくる

俺が恋人と別れてもなんともないってわかってるんだよなぁ…

それどころか『またか』ぐらいに思ってるかも

「はい、どうぞ」

オーダーしてないのに飲み物が提供される
これもいつものこと…

飲むのは好きだけどあまりカクテルに詳しくない俺の為に
マサキが思うところの俺に相応しい一杯が最初に出される

「これなに?」

「カイピロスカ…『明日への期待』です」

「『明日への期待』ねぇ…
今の俺には全く無いものだな」

「そんな寂しいこと言わないでください
いつか大野さんに相応しい相手が見つかりますから」

「もういいよ…面倒くさくなってきた
女と付き合うの…」

「だったら男性と付き合えばいいんですよ」

「…は⁈」

「男は楽ですよ?気持ちわかって貰えますから」

ニコッと爽やかな笑顔で言われると軽く聞こえるけど俺には結構な重さ

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