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a faint

第2章 white-night obsession


white-night

上質なシルクのクロスが掛かった猫足の丸いアンティークなテーブル。

両肘をつき 左右の指を交差した上へ顎先を預け 正面を見る。

「大好きぃー」

子音の強調された軽やかに弾む声が 目の前に山と積まれた甘い砂糖菓子に向けられた言葉だったとしても 嬉しくないわけがなく 思わず 頬をダラしなく緩(ゆる)めてしまうのは オトコの哀しい性(さが)だろう…いや オレだからか。

金も 地位も 人望もそれなりに。

小難しいコトを こねくり回して 深みにハマるのは嫌いじゃないし あれやこれや論じるのも苦手ではない。

弁が立つと云われるのは 今に始まったコトではない。

けれど 相手がドールでは 些か分が悪くなる。

彼女を見ているオレの顔は どうやらヒドくしまりのないコトになっているらしく

「頭イイのに……何でそうなっちゃったかな」

そう言って 何故か不機嫌そうな顔で 不満げに口唇をちょい尖らせたかと思うと

『おいで……』

そんな誘うような瞳(め)をするのが 堪らない 許せない。

けれど それにうかうか乗るとろくでもないコトが起きるのは 百も承知。

だから 敢えて素知らぬ顔で 頬杖付くフリして 斜交いに目を逸らすせば ぷぅーと擬音が付きそうに 頬を膨らませ また食うのか と云うか まだ食えるのか と云う勢いで ダダ甘い菓子をヤケ食いみたいに頬張ってみせる。

オトコだから知りえてるオトコの本能のセンシティブな部分を 巧妙にに擽(くすぐ)るコケティッシュな仕草。

オトコが持ち得る至極単純で明快な思考回路の構造を手玉に取ってくるのが 何かとやりづらい。

幼子みたいな様相に 可愛いじゃないかと 一瞬でも相好を崩せば たちまち形勢は ”振り出しに戻る ”だ。

雑な駆け引きを 綱引きか 綱渡りするかみたいに 微妙な加減で繰り返す。

狩りたい獲物はただ一つ。

爛(ただ)れた思考 絶たれた嗜好。

綺麗なネイルが施された指先が 摘(つま)もうとした黄色いマカロンを かっさらって口に放り込み 丸くした眼に

”そんなに驚くなよ”

ニッと笑い返せば

”……ふーん”

何かを見透かした様な酷くサディスティックで黒目がちな瞳が クルンと動いて 俺を射抜いた。

一方的な愛 一方向な想い。

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