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a faint

第2章 white-night obsession


white-night

”空の青に透けて広がった飛行機雲のような……”

上向きに吐いた煙へ そんなメルヘンチックな例えを思いついたところで何になろうか。

たかが紫煙、薄暗い天井を小汚く燻(いぶ)すだけが精々だ。

広いフロアの奥、Y字階段の左側を上がって直ぐの小部屋。

降ろしっ放しのカーテンの端を少し捲(まく)り ガラス越しに階下へ視線をやれば 週末で尚且つ月末(つきずえ)の夜は 客の入りがいつにも増して上々で ほくそ笑みたくなる。

その中でも一際盛況ぶりを見せるのは ナイチンゲールが座るテーブル。

小綺麗な面と丁寧な物腰でカモをイイ気分に浸らせた挙句 ケツの毛まで引っこ抜くのはいつもの手だ。

その傍の壁際で パペットマスターが取り巻きの老若男女を上手く操り 成金野郎をおだてては 賭けダーツへ引っ張り込む。

バカラの席は お互いを牽制し合う視線の交差が堪らない。

照明の当たらない隅に陣取るのは女衒屋。

妙な気さえ起こさなければ 質の良い仕事をしやがるのだけれど イヤな薄ら笑いを浮かべてるあたり どうやら商談ではなく 密談らしい。

オッズは急上昇、鮮やかな手練手管が物の見事に金を巻き上げていく。

そのど真ん中に君臨するのは 他の誰でもないジュモー。

相変わらずニコリともせず 可愛げの”か”の字も見せない仏頂面。

金剛石に白金、琥珀を捧げ 頭(こうべ)を垂れて傅(かしず)くオトコ共を足蹴にして 無愛想にプイとそっぽを向く。

取り付く島もない素振りしても その視線の先にちゃっかり女衒屋を捕捉しているのなんざ 最初(はな)っからお見通し。

野郎共が勝手に熱を上げ ドールを崇め奉るのは一向に構わないが そいつ等を邪険にする態度は些か問題アリ…だ。

少しは ”商売っ気” と云うモノを念頭に置いて貰いたい。

ヘッドドレスでカバーしたインカムへ

『右二人目 ダイヤモンド鉱山を牛耳ってる…堕とせ』

オーダーを下す。

ダンッと足を踏み鳴らして立ち上がるその音が ガラス越しにでも響いてきそうで キッと此方を睨む目に苦笑いを返す。

レースを翻し 不承不承出ていく後ろ姿を追っていた女衒屋の視線がこっちを見上げるのに ざまぁみろと中指立ててやる。

さぁ 宴もたけなわ なりふり構わず 金をばら撒け。

今宵も奏でろ 享楽と破滅のレクイエムを。

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