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Kissシリーズ

第5章 眠り王子とのキス

近くにいた人に聞くと、暴走してきた車が公園に突っ込み、一人の男の子が轢かれたと言う。

ものすごくイヤな予感がして、あたしは人ごみを押しのけて救急車の前に来た。

そこには…傷だらけの彼がいた。

頭の中が真っ白になって…しばらくは何にもする気力がわかなかった。

でも何とか高校を卒業して、大学に進んで…。

そして決心した。

きっと彼は起きたら別れを切り出す。

だから今度こそ、大人しく受け入れようって。

そう決めたあたしは、彼の看病の手伝いをすることにした。

はんぱなままはイヤだから…最後にきちっと終わらせるように。

いつ起きるか分からない彼を待ち続けるあたしに、周囲は感心した。

けれどそんなキレイなものじゃない。

ちゃんと終わらせる為に、決心が揺るがない為にしていることだから。
何年かかってもいい。

彼の口から切り出せるまでは、しっかり彼女の役目を果たそうと決めた。

なのに…。

「まさか三年も待たせられるとはね」

枕元に置かれた汚れた紙袋を指でつついた。

当時、彼が事故にあっても離さなかった紙袋。

有名なアクセサリーメーカーの袋の中には、メッセージカードがあった。

あたしへの誕生日の祝いの言葉。

プレゼントだ。

「でも嬉しいのか悲しいのか、分からないわね」

最後になるプレゼントなんて…。

いや、でも決めたんだ。

彼の為にも、あたし自身の為にも。

あたしは彼の顔を覗き込んだ。

もうすっかり大人の顔付き。良い男だ。

「早く起きないと、前へ進めないじゃない」

…そう言えば、眠り姫なんて物語があったっけ。

でもこれじゃ眠り王子だ。

「早く起きなさいよ」

そしてあたしを早くフッて。

思いを込めて、あたしは彼にキスをした。

―懐かしい感触。

涙が出そう。

「大好きよ…」

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