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Kissシリーズ

第36章 ほのぼのしたキス

彼との思い出が詰まっているけど、不思議と辛くはなかった。

目の前に広がる景色を見ると、モヤモヤして気分も考えもスッキリするから。

「すぅー、はあ…」

何度か深呼吸して、落ち着いた。

誰もいない秘密の場所。わたしはベンチに座った。

そして頭の中が空っぽになると、眠くなってきた。

最近…寝不足だからな。

そのまま目を閉じて…。

「…い。オイって!」

「えっ…わっ!」

肩を揺さぶられて目を開けると、目の前に彼が…いた。

「えっええ!? 何で?」

「何でって、お前…」

彼は息を切らし、汗だくだった。

「あんな電話の切り方しといて、何だよ…」

「何って、いつものイライラじゃない」

少し眠ったおかげか、あっさり返してしまった。

「…ったく。心配して来たのに」

彼はそのまま私の隣に座り込んだ。

わたしはハンカチを取り出し、彼の顔の汗を拭いた。

「ごっゴメン! 最近、ちょっと受験ストレスで…。でもわたし、あなたのこと好きだから!」

「なっ!」

彼がぎょっとして、目を見開いた。

「別れるとか言わないでね!」

「それはコッチのセリフだ!」

彼はいきなり立ち上がった。

でもすぐに、その表情を曇らせる。

「…不安にさせて、悪いと思ってる」

「うん…」

「でも、もうちょっとの辛抱、してくれるか?」

「もうちょっとって?」

きょとんとしていると、彼はバツが悪そうに向こうを見る。

夕日に染まる街を。

「オレはやっぱりココが好きだからさ」

「うん、知ってる」

彼がここへ来るのは、わたしに会いに来る為もあるけど、この街を愛していることをよく知っている。

「お前、地元の大学通うんだろ?」

「うん」

「だから、オレも同じ大学に通う」

「えっ…」

彼は真剣な顔になり、わたしを優しく抱き締めた。

「いい加減、お前に不安を与えてばっかじゃダメだと思って…。でもオレの頭じゃ、あの大学は到底ムリだから、友達に勉強教えてもらってたんだ」

「でっでもそれなら塾に行けば…」

「アホッ! そんな金があるなら、お前に会いに来る!」

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