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Kissシリーズ

第37章 純愛のキス・1

わたしにとって、日曜の午後は特別な日。

通っているピアノ教室に行く日だからだ。

先に練習室に通されたので、軽く指を動かす為に、少しピアノを弾く。

ここには6歳の頃から通い始めて、もう10年目になる。

教えてくれる先生も、変わった。

3年前から、前に教えてくれた先生の息子さんになった。

…その時から、わたしの演奏は変わってしまった。

物凄く、ダメな方向に…(涙)。

「こんにちは」

突然、扉が開き、息子さん…ではなく、先生が入ってきた。

「はっはい! こんにちは、先生」

背筋を伸ばし、立ち上がった。

「座って。課題はやってきた?」

「はい! もちろん!」

この1週間、毎日ぎっちり練習してきた。

練習を聞いてくれる両親も、上手になったと褒めてくれたぐらいだ。

音楽の先生にも聞いてもらって、お墨付きをもらった。

今日ならば!

「じゃあ、弾いてみて」

「はい!」

わたしはイスに座って、深呼吸した。

そして…。




…あり得ないほどの、異音曲を弾いてしまった。

今日もまた…やってしまった。

「あっあぅあぅ…」

血の気が引いていく。

先生は深く息を吐くと、扉に向かって行った。

「―少し、休憩しよう」

「はっはい…」

バタンと扉が閉まる音が、重く聞こえた。

イスに寄り掛かり、わたしは天を仰いだ。

…今の先生に変わってからというもの、わたしの演奏はとんでもないものに変わってしまった。

あの先生の前では、指が言うことを聞いてくれない。

まるで壊れたオルゴールのような曲ばかりが、わたしの指先から生まれるのだ。

…あの先生とは、昔からの顔馴染み。

カッコ良くて、面倒見が良くて、子供好きな人だ。

正直言えば、初恋の人。

わたしがここへ来たばかりの頃、先生はまだ高校生だった。

練習室に一人待たされ、前の先生と両親が待合室で話をしていた時、高校生だった先生がやって来た。

そしていろいろ話をしてくれて、リラックスさせてくれた。

この教室に通い続けるのも、先生が目当て…なところもある。

けど…。

3年前まではコンクールで賞を取ったり、マスコミの前に出たりと、それなりに有名だったわたしが…今ではこんな有様。

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