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Kissシリーズ

第38章 純愛のキス・2

教師職10年にもなると、いろいろなことに慣れてくる。

男子高校の先生なんて7年もやっていると、すでにベテランの域。

若くてイキイキしている男子生徒諸君は、できの悪い弟みたいで、接しやすかった。

そのおかげか、あたしの受け持つ生徒は特に問題も起こさず、卒業してくれるのだが…。

「う~ん…。コレは一体どうしたのかな?」

あたしは困りつつ、首を横に傾げた。

あたしの目の前には、高校三年になる男子生徒・1人。

二者面談は授業が全て終わってから行うことになっている。

だから夕日が差し込む教室の中、あたしと彼だけしかいない。

三年生ならばとっくに卒業後の希望を決めてもおかしくない時期なのに、彼は進路調査を白紙で提出してきた。

…いや、正確には名前だけを書いて、提出。

だから呼び出し兼二者面談になったワケだけど。

彼は高校三年になってから、受け持った生徒。

二年の頃までは明るくはしゃいでいたイメージがあったけれど、三年になってからは真面目になった。

成績もあたしが担当している数学を筆頭に上がったし、めんどくさい役員とかも引き受けてくれた。

だから先生達の間では、評判の良い生徒なんだけど…。

「まだ就職か進学か決まっていない?」

「…いえ、そういうワケでも」

…あたしの目を見ないようにしながら言われてもなぁ。

「えっと、とりあえず二年の時に出してもらった調査書に合った大学のパンフをいくつか持ってきたの。良かったら目を通すだけ、通して見て」

と、教頭先生から押し付けられた大量のパンフを入れた封筒を机に乗せて、ずずいっと押す。

「はっはい」

あまりの多さに、目を丸くするよね?

「でも二年の時は英語が得意だったのよね。三年になってからは数学の方が成績が良くなってくれて、嬉しいわ。何なら理数系の大学の…」

「嬉しい、ですか?」

突然あたしの言葉を遮り、彼が真剣な言葉を出した。

「えっええ、もちろん。あたしの担当する教科だし、数学を好きになってくれるのは素直に嬉しいわよ」

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