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Kissシリーズ

第38章 純愛のキス・2

…あたしに好意を持ってくれた生徒は、大抵決めた進路の中で、本当のパートナーを見つける。

だから彼にも見つけてほしかった。

まだ小さな世界しか知らないから。

そこで出会ったのがあたしだとしても、外の広い世界にはきっと、彼に相応しい相手が待っているから。

「それじゃっ…ちゃんと進路通りに進んでっ、一人前になったら、先生は認めてくれるんですか?」

声のおかしさに気付いて彼を見ると、…泣いていた。

ボロボロと。

「あわわっ!? 何も泣くことないじゃない!」

少しきつく言い過ぎたかな?

慌ててポケットからハンカチを取り出し、彼の涙で濡れた頬をふく。

「すみまっせん…」

「いいのよ。ゴメンなさい。ちょっと言い過ぎたわ」

年下に、…いや、生徒にムキになった。

教師失格だ…。

でもここで、投げ出すワケにもいかない。

あたしは教師なんだから。

このコの担任として、振るまわらなきゃ。

あたしは一度目を閉じると、決心して開けた。

そして―彼にキスをした。

「…えっ…」

軽く触れるだけのキス。

それだけで、彼の涙は止まった。

「…ちゃんと進路を決めなさい。そしてその道に進んで、一人前になってから、もう一度あたしのことを考えて。それでもまだ今の気持ちが変わっていなかったら…」

あたしはゆっくりと彼から離れた。

「会いに来て。あたしはずっと、ここにいるから」

彼の手にハンカチを押し付けて、あたしは立ち上がった。

「先生っ!?」

「キミが本当の大人になるの、待ってる」

―その瞬間、あたしは教師としての役目を忘れた。

忘れて、一人の女性になってしまった。

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