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Kissシリーズ

第38章 純愛のキス・2

その後、彼は理数系の大学に進むことを決めた。

大学をちゃんと合格して、高校を卒業した。

卒業式が終わった後、校庭で彼と目が合った。

彼は真面目な顔で礼をして、去って行った。

―あれから5年の月日が流れた。

あたしは今でも同じ高校で教師をしている。

彼が去った後は、至って平凡な日々を送っていた。

だけどふと思い出してしまった。

あたしは彼にだけ、女性としての顔を見せてしまったことを。

それは自覚していなかったけど、あたしは彼のことを…。

夕日の差し込む教室で1人、ため息をつく。

「先生」

あっ、幻聴まで聞こえてきた。よりにもよって彼の声。

「先生、約束、覚えていますか?」

「えっ…?」

ここまではっきり聞こえるのは…幻聴なんかじゃない。

驚いて顔を上げたあたしの目に映ったのは…立派な男性になった、彼だった。

「どっどうしたの? あっ、久し振りね」

突然のことに、あたしはパニックを起こしていた。

けれど彼は優しく微笑んで、近付いてきた。

「オレ、教師になったんですよ。先生と同じ、数学教師に」

「えっ…そうだったの?」

あれから音沙汰は一切無かった。

手紙も電話もなく、同窓会にも彼は出席しなかった。

だからてっきり、新しい彼女ができたとばかり思っていたのに…。

「それで、今年からこの学校に赴任してきたんです」

「えっ、そうなの?」

「はい、ずいぶんムリしましたけどね」

苦笑する彼は、スーツを着こなしている立派な社会人だ。

…あたしより、しっかりしてそう。

「そう…だったの。立派になったわね」

思わず胸が熱くなる。

目も熱くなって、涙が浮かんでくる。

生徒の成長は素直に嬉しい。

「はい。これなら、先生に一人前だって、認められると思って」

「えっ…?」

「忘れたんですか? オレがちゃんと一人前になったら、もう一度告白して良いって言ったじゃないですか?」

「にっ似たようなことは言ったけど…」

「オレはこの五年間、その言葉を支えに、生きてきたんですからね」

少し赤い顔をしている彼を見ると、五年前の姿と重なる。

「愛してますよ、先生。五年経っても、オレの気持ちは変わりませんでした。―今度こそオレの本気、受け取ってくれますか?」

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