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Kissシリーズ

第7章 オレ様とのキス

「あっ暑い…」

ダラダラと絶えず汗が流れる。

「オーイ! 走るから、ちゃんとタイムとっとけよ!」

「分かってるわよ!」

「んじゃ、行くぞ!」

そう言って構えるアイツ。

わたしはストップウォッチを握り直した。

「用意! スタートっ!」

わたしの声と共に、風のようなスピードで走り出す。

そして目の前を通り過ぎると同時に、スイッチを止める。

「…良いタイム出すわね」

「当然だろ?」

自信満々に髪をかき上げる仕種を見ると、イラッとしてくる。

…これでも我が陸上部のエース。

短距離走で高校記録を軽く抜いていくほどの、才能と実力がある。

なのにこの自信満々で、オレ様的性格が、どーにも気に入らない。

「ねぇ、ちょっと休憩しましょーよ。暑くて眼が回る」

「何だ、女みたいなこと言って」

「生まれて十七年! 男だった覚えは無いわ!」

怒鳴ってわたしはアイツに背を向けた。

木陰に置いてある自分のペットボトルを手に持った。

冷たい麦茶を飲んで、一息。

「ふぅ…」

「あっ、オレにもくれよ」

わたしはアイツの荷物からペットボトルを取り出し、剛速球のごとく投げた。

「うをっ!」

しかしきっちりキャッチされた。

「チッ」

「おまっ…エースのオレに何かあったら、どーすんだ!?」

「こんなことで何かあるなら、アンタなんて大したことなかったってことでしょ?」

冷静に言って、わたしは再び背を向ける。

あの顔を見ると、殴りたくなる。

…なのに、アイツの自主練に付き合っている理由は…この後、アイスを奢って貰うからだ。

うん、それだけそれだけ。

「でもマジであっちーなぁ」

ちらっと振り返ると、汗を拭いながらスポーツドリンクを飲んでいる。

…ふとした時に見せるあの顔は、キライじゃない。

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