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Kissシリーズ

第10章 命のキス

「さて、と…」

私は誰もいない学校のプールサイドで、伸びをした。

そして始めるラジオ体操。

「イチニッ、イッチニッ!」

一人で虚しいとかは考えない。

…って言うか、考えてらんない。

夏休みになり、私の所属する水泳部は輪をかけて部活動に力を注ぐようになっていた。

私は1年生で、マネージャーをしていた。

けれど本当はカナヅチで、少しでも泳げるようになりたいからマネージャーになった。

部員ではみんなの足を引っ張るのは目に見えていたから…。

だからはじめての挨拶の時、そのことを言ったら、部員達は笑って受け入れてくれた。

そして部活の時、余裕があったら泳ぎを教えてくれるようになった。

優しい人達だ。

なのに私ときたら…。

思い起こすこと十日前…夏休みに入ってすぐの部活の時だった。

あの日は最初からプールに入れた。

もうすぐ大会だから、その日で教えるのは一時休止にしようと部長から言われていた。

だからはりきって泳いだのに…。

「はあ…」

溺れた。思いっきり。みんなの見ている前でっ!

そして部長に救助されて…。

人口呼吸で息を吹き返した……。

つまり…。

「ファーストキスが、人口呼吸…」

気分と共に、体が重くなる。

部長は行動的な人で、面倒見の良い先輩。

泳ぎを一生懸命に教えてくれた。

なのに…溺れた挙句に、人口呼吸までさせてしまった。

悪くて体調が優れないという理由で、今の今まで部活を休んでしまった。

もうすぐお盆だから、部活自体が休みに入る。

その前に内緒で一人、泳ぎに来た。

「せっせめて溺れないようにしないと…」

ビート板では早く泳げるようになった。

…それこそ選手より早く。

けれどビート板無しでは、ズブズブ沈んでいく。

……体重のせい? と思ってしまうぐらい。

「よしっ!」

準備運動は終わった。十分に体もほぐれた。

最初はビート板を持って泳いだ。

ちゃんと泳げた。

「ふぅ…」

今度はビート板を近くに浮かせながら、一人で泳いでみよう。

バタ足で息継ぎをちゃんとすれば、ごっ5メートルぐらいは…!

「うぶっ!」

ところが何度か顔を上げているうちに、体が沈み始めた。

ここでパニックになってはいけない。

冷静に、冷静に…。

「うぶぶぶっ!」

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