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Kissシリーズ

第23章 執事とのキス

「おはようございます、お嬢様」

彼がニッコリ微笑んで言うと、周囲にいた生徒達はザワめく。

「カバンをこちらへ」

そう言って有無を言わせず、アタシのカバンを取り上げる。

「あっ、ちょっと!」

「ささっ、お席に」

手を握られ、腰を触られ、席へ誘導される。

すると席を引いて、再びにっこり。

「さっ、どうぞ。お嬢様」

ギクシャグした動きで座ると、

「のどは渇いておりませんか? 紅茶などいかがです?」

…と、女子生徒どころか男子生徒まで魅了しそうな笑みで言うモンだから、

「んがあああ!」

キれた★
彼の手を取り、走り出す。

そして人気の少ない中庭に来ると、手を放した。

「ゼーハーゼーハー…」

「どうしました? お嬢様。いきなり走り出して」

しかし彼は息1つ乱さず、平然としている。

…そう。彼は運動神経が高いし、勉強もできる。

それどころか、顔はモデル以上。

母親は有名女優、父親は世界中にいくつも会社を持つ大企業の会長。

彼は三男で、女子生徒達が虎視眈々と花嫁の地位を狙っている。

そんな人がアタシに対して、まるで執事のように振る舞うのには理由があった。

だけど!

「その背筋が寒くなるようなマネはやめて! 朝から血の気が引くわ!」

「心外だなぁ。オレはオレなりに、アンタのモノとしてちゃんと尽くしているのに」

「アンタは楽しんでいるだけでしょうがっ!」

「うん、それもある。でもそれもキミが言ったことでしょう? 『自分で人生を楽しめ』って」

「うっ…!」

くらっと目眩がする。

するとつい一ヶ月前のことが、走馬灯のように思い出せた。

一ヶ月前。

アタシは部活で遅くなって、とうに下校時刻が過ぎた後に帰りのバスに乗った。

学校から駅までのバスには、アタシと運転手、それに彼の3人しかいなかった。

彼には迎えの車が来る時と、こうやって帰る時があることを、何度か目撃して知っていた。

同じクラスで、周囲からは王子様扱いされている彼のことは、イヤでも意識に残っていた。

だけど断言できる。

恋愛感情では無かった!

だから彼と一緒にいることは、正直居心地が悪かった。

平凡な自分とは、まるで別世界にいるような人間だから…。

彼はぼんやりと外の景色を見ていた。

だからアタシは何気なく、彼を見ていた。

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