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Kissシリーズ

第25章 バレンタインのキス

「あ~、オレってさ、甘いもんキライなんだよ」

ピシッ!

…世界と共に、自分の表情が固まる音がした。

バレンタインデーが間近という時に、付き合い始めた彼氏から発せられた言葉はあまりに衝撃的だった。

いや、面と向かって言われたワケじゃない。

わたしは日直で、帰りが少し遅くなっていた。

彼は一緒に帰ろうと言ってくれて、それまで教室で待ってると言った。

だからわたしは大急ぎで日直の仕事を終えて、職員室から教室へ戻ると、教室からは彼と数人のクラスメートの声が聞こえていた。

そして…彼のあの言葉を聞いてしまった。

扉一枚向こうの、廊下で。

一瞬にして、目の前は暗くなり、頭の中は真っ白になった。

高校に入って、同じクラスになった彼に一目惚れして、ずっと片思いだった。

だけど好きって気持ちが抑えきれなくて、わたしの方から告白したのは二ヶ月前の話。

おかげでクリスマスも初詣も楽しく彼と過ごせたワケだけど…。

恋人にとって最大級のイベントは、楽しく過ごせそうに無いな…。

…思い起こせば、食事に行った時、彼は甘い物を一切食べなかった。

わたしはお菓子作りが趣味ってワケじゃないので、今までそういう話題が無かったワケだけど…まあイベント前に知れて、良かった…かな?

まっまあチョコじゃなくても、おせんべいとかおかきとかでも良いよね?

ようはイベントを楽しく過ごせれば良いわけで、中身は甘くなくても彼が喜べば良いんだ!

わたしはそう決意して、教室の扉を開けた。

「お待たせ~!」

…でも自分の部屋に入ると、気分はズーンと重くなる。

何せ机の上には、チョコ菓子の作り方の本がドッサリ置いてあるから…。

「はあ~」

図書館から借りたり、友達から借りたりしたから、エライ量になっているな。

良いなと思ったページには付箋も付けてるし。

イスに座って、パラパラめくる。

美味しそうなチョコ菓子が、いっぱい載っている。

「…おせんべいとか、おかきの作り方が載ってる本を探そうかな」

帰り道、それとなく彼に好みを聞いたら、好きなお菓子はやっぱりおせんべいとかおかきって答えた。

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