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Kissシリーズ

第31章 昔からのキス

わたしの幼馴染は、ちょっと変わったヤツだった。

キレイな顔をしているのに、その表情は滅多に動かない。

せめて笑顔を浮かべてほしくて、わたしは小学生時代、少ない知恵を出して、イロイロしてみたが…みんな失敗だった。

「ねぇ、何でそんなことするの?」

と、ある日、アイツに聞かれた。

それは手品を見せたら喜んでくれるだろうかと思ってやったみたが、仕込んでいたネタが地面に落ちて、気分まで落ち込んでいた時だった。

「だってお前…全然笑わないじゃないか」

泣きそうになるのを必死に抑えて、わたしは真っ直ぐにアイツを見つめる。

「お前、せっかくキレイな顔をしているのに、笑わないなんてもったいないだろう?」

「…それ、女の子のキミに言われると、結構複雑なんだけど」

そう言って遠い目をされた。

「わたしは笑うから良いんだっ! でもお前は全然笑わないじゃないか!」

でも怒ったり悲しんでいるところは、見たことがあった。

それはどん臭いわたしが、他のコにイジメられているのを知られた時だった。

「何で黙っていたの?」

とても不機嫌な顔をされて、わたしはその表情を見るのが始めてだった。

だから悲しい気持ちもふっ飛んで、嬉しくなってしまった。

「何で笑ってんの? イジメられるのが嬉しいの?」

「そんなワケないだろう。でも…お前のブスっとした顔を見れて、嬉しいんだ」

正直に満面の笑顔で言うと、今度は哀れみの眼差しを向けられた。

「キミって…本当にバカだね」

「なっなにおー!」

「ったく」

アイツはため息をつくと、悲しそうな顔になった。

「キミのこと、全部知っているつもりだったのにな…」

そう呟くと、アイツはわたしを置いて行ってしまった。

「おっ怒ったのかな? それとも呆れたんだろうか…」

わたしがイジメられても平気だったのは、アイツがいたから。

昔から変わらず接してくれるアイツがいたからこそ、わたしは耐えられたのだ。

だからもし、アイツまで離れてしまったら…悲しかった。

けれど翌日、ケガをしたアイツを見て、その悲しみがふっ飛ぶほどに驚いた。

「おっおまっ…どうしたんだ? そのケガっ!」

「…別に」

ふいっとそっぽを向いて、アイツは何も言わなかった。

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