恋の声
第3章 悩ましくも臆病であった私
和田さんの会社でお手伝いとして入った私は、結局正社員として働くことになった。
真面目だし、覚えが早い。しかも経理の計算までしてくれる!!と和田さんがキャスティング会社のメンバーに紹介してくれた初日すぐに皆さんは
[なんだ!そのできる新人!ほしいです社長!!]と言ってくれた。
皆さん、忙しく働き若い方が多かった。
嫌がらせなんてしていられる程の暇はないようであった。
1人4.5ほどの件を抱えており、テレビやイベント物販等のアイドルや芸人のキャストを決める人や、アニメやゲームの声優のキャスティングなど、幅広く仕事をしていた。
「イヤ社長がこんな良い人材紹介してくれて嬉しいよ僕は。」所長は唯一の50歳代で、やや白髪混じりの髪を手櫛で整えていた。
「私も…こんなに早く正社員で雇ってもらえるなんて、ありがたいです。芸人さんに詳しくなっちゃいました」
「あ、俺も昔芸人目指してた口なんだよ〜全然売れなかったけどね〜そのツテを利用しての今の職よ。昔の仲間で売れた人たち呼び放題キャストし放題だからね〜」
芸人目指してたなんて意外…面白いこと全く言わないのに…いや仕事中だから当たり前か。
「最近、乙女ゲームのキャスティングやってるけど難しいわぁ…僕乙女じゃないもん。雪穂ちゃん誰か声のいい人知らない?」
声の良い人…そう言われて私の頭をよぎったのは、1人だけだった。
佐々くん。苗字しか知らない。
私の好きだった人。
「私も声優さんは詳しくないですよ。私がやってるのスーパーのイベントコーナーでコントしてくれる芸人さんのキャスティングですもん」
この仕事、残業多いけどやりがいある!楽しい!
佐々くんのことも、前の仕事の嫌なことも忘れさせてくれるほどに、仕事は充実していた。