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恋の声

第3章 悩ましくも臆病であった私

「雪穂さ、仕事しない?手伝いだけどさ」
母が朝食のパンをかじりながら、声をかけてきた

まだ朝の日差しが眩しい8時頃、兄は出勤しているから2人の朝食だった。

「仕事?でも誰の手伝いよ?」

「誰って、あんたの義理の父親のよ」
母は少し恥ずかしそうに言った

「あぁ再婚相手のね。和田さんね」
母と再婚した和田さんは会社を経営している人だった。詳しくは知らないが、奥さんが亡くなってから、ずっと1人で子どももおらず、何だか穏やかそうな人だなぁという印象しかなかった。

「そうそう。あの人、キャスティング会社の仕事とかしてるのよ。知ってる?キャスティング」

私も食パンにバターをつけながら、モソモソと食べ始めた
「キャスティング?何それ?」聞いたことはない職業だった

「テレビとか、ゲームとかアニメとか?イベントとか色々。芸能人の誰がその番組に出演するのとか決めてる人よ。」

「え?それってテレビ局の人が決めるんじゃないの?」そんな職業があるんだ…知らなかった。

「うーん。ママも詳しくは知らないわよ?まぁキャスティングの仕事だけじゃないんだけどね。和田さん手広く色々やってるのよ。」
コーヒーを飲みながら話す母は饒舌だった。

まぁ好きな人の話だしね。


「和田さんは私が会社に入っても良いって言ってるの?義理の娘だし…気まずくない?」

「でも、今仕事してないって話したら、じゃあウチにって向こうから言いだしたし。一応気にしてくれてるのよ。頼りにされたら喜ぶと思うわよ。手伝いだけやってみたら?ダメだったら、またちゃんと仕事探してみれば良いしね。」
せっかくもらったチャンスをダメにしないわけはない。私も新しいことはしてみたい。
学歴が大してない私にはまたとないチャンスかもしれない。

「あけちゃん!私やる!やってみたい!全然何やるのか分かんないけど!」

2人で目を見合わせて笑った。

今ならなんだって出来そうな気がしたから。

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