テキストサイズ

恋の声

第6章 これはマネージャーの仕事じゃない!?


「ここからベッドシーンじゃないですか…やっぱり相手がわざとしてる棒読みでもなんか燃えないというか…わざとって分かっててもなんか…こう」

私の顔は赤くなり、額にも手にも汗が浮かぶ。
「セクハラです!嫌ですよそんな!冗談じゃない」
瀬戸さんは私がプンスカ言っているのを、半分呆れ顔のように眺めている。はぁとため息をついて、机を挟んで私の眼の前にいたが、急に立ち上がり
私の右隣、正確に言うと右後ろに座った。かなり近い。瀬戸さんはあぐらをかいているが彼の膝は私の崩して座った足先に触れている。
後ろから抱きしめられるのではないかという危機感で、私の猫背をさらに丸々。
「え!?な、何ですか!?いきなり」

「いや…近くで演じたらイメージ湧くかなぁと思って。俺結構イメージから入るタイプなんですよ」

くっそう…このイタコ声優タイプめ!!!
私ブツブツ文句は聞く耳を持たないと瀬戸さんは台本を読み始めた。

「ちょっ、ちょっと聞いていますか!?瀬戸さん…………ひゃっ!」
反射で声が出た。後ろを振り向くと瀬戸さんと目が合う。瀬戸さんも私の声に少し驚いたのか目を丸くしていた。私は何をされたのか状況が掴めない。
瀬戸さんは、私の髪に触れサイドに降りた髪を耳にかけたのだった。
突然耳と髪に触れられて声が出た。
「びっくりした…いきなり何してるんですか…」
間抜けな声が出て恥ずかしい。瀬戸さんと合っていた目をすぐに逸らす。

「えっと…セリフどこからでしたっけ…変なことするから…分からなくなってしまったじゃないですか……ひゃっ!!!」
今度は耳にふぅーーっと息を吹きかけられていた。


「もう!何なんですか!?何か言ってください!」
何も言わずにいたずらしてくる瀬戸さんに私は半ば怒りをあらわにする。


「可愛い…。可愛いです瀬戸川さん。」
その切れ長の目が少し潤んで輝いているように見える。
しかし奥には男の欲望に揺らめく本性がのぞいていて、いつもの穏やかな雰囲気は感じられなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ