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恋の声

第7章 それダメです

男の人の欲望に揺れる瞳と見つめ合い、私は吸い込まれるように見とれてしまった。

危険だ…この人から逃げなければ…
しかし直ぐ後ろに瀬戸さんはいる。
立ち上がるにも身体がぶつかる。テーブルと瀬戸さんに挟まれている状態。簡単には立てない。

「か、からかうのは、やめて下さい。」精一杯の強がった言葉。
その言葉すらも、何故か彼には欲望を高ぶられる効果に繋がっているようだった。

「瀬戸川さん…名前で呼んで下さい…」

「な、名前?どうしてです?」なぜこのタイミングでそんなこと…

「俺たち瀬戸に瀬戸川…名前が似ています。呼びづらいですよね…柊一郎って呼んでください。」
切れ長の目を細めて色っぽく微笑んでいる。心なしか頬も赤い。吐息交じりにそう言われるとなんとも拒否し難い。

「しゅう…いちろう…さん?」遠慮がちに下の名前で呼んでみた。
なぜこのタイミングでそんなこと言うのかもわからないし、私と瀬戸さんはそんなに親密になった覚えはない。
冷静に考えると不思議なことばかりだが、今の私は冷静ではなかった。

瀬戸さんは後ろから腕を回し、私の肩をきつく抱きしめた。瀬戸さんの鼓動が背中につたわるのと、腰あたりに何か、硬いものが当たっているような気がする。
恐らくそれであろうと思うものが、鼓動と伴って脈打っているのが分かる。

「…あの…この状況はなんなのでしょうか…?」
いたたまれなくなって、先に言葉をかけたのは私。
その問いかけで瀬戸さんの腕の力は少しキツくなる。

「初めてあった時、瀬戸川さんを見た時から…本当はずっとこうして…抱きしめてしまいたいって思っていたんです… 」
肩に顔を埋めながら、ささやく様な声で訴えかけられる。

私のことをからかっているのか、本気なのか…25歳になっても浮いた話1つない私にはどちらなのかは分からない。

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