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恋の声

第7章 それダメです

「瀬戸さん…私は瀬戸さんのことは大切な職場の声優さんだと思っています。」
私の口から出たのは精一杯の平静を装った言葉。
本当は、こんなに抱きしめられてドキドキしているのも、見かけよりも筋肉質ながっしりとした胸板が自分の背中に感じてソワソワしていることも、彼の伝わってくる鼓動が速いことも…頭の中では情報が処理しきれないほどに渋滞している。

自分の部屋なのに落ち着かない。やはりこの男を家に入れたのは失敗だった。

「瀬戸川さんは…俺がどんな意味で言っているのか…分かっていないんですか?」
瀬戸さんは私の肩から顔を少し上げて、首に吐息がかかる様な距離で話している。

「どんな意味って…んっ…いたっ…」

首に感じたことのない、小さな針が刺さった様な痛みがあり、思わず振り返る。
瀬戸さんは私の首に唇を当てている様だった。
唇が離れたと思うと、首にゆっくりと舌を這わせた。
暖かくて、柔らかい感覚が首に伝わってくる。

「や、やめて下さい。何してるんですか」


「瀬戸川さんが、その気がないのは十分分かりました。でも、俺はもう我慢しません。手も出します。」

そういうと、瀬戸さんは私を抱きしめている腕を緩めて、すっと立ち上がった。
「今日は帰ります。カギ…ちゃんと閉めて下さいね…」
私は振り返り瀬戸さんの顔を見上げた。
熱のこもった瞳はそのままで、酷く切ない表情をしていて私が悪いことをしてしまったのではないかと思えてくる様だった。

まだ、ズボンの布が引っ張られるほどに彼の物は昂ぶっていて思わず目を背けた。


その後の言葉は、あまり語る程でもない。
本当に瀬戸さんは帰っていった。



あれから、1時間程たったであろうか
私は呆然としていたが、時刻が22時を回ろうとしていた時計を見て、お風呂に入らねばと思った。
明日も仕事がある。お風呂に朝入るなんてことは、社会人5年目のすることじゃない。

空っぽの頭で、クローゼットから下着と寝間着を出し、洗面所まで脚を運んだ。
洗面所の備え付けの鏡に映る自分を見て驚いた。

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