テキストサイズ

my destiny

第17章 君への想い

【智side】

翔君が寝てるオイラのほっぺたを、指でそっと撫でてる。

共に老いてきたオイラ達の手は、若い頃に比べたらもう、きっと皮膚も硬いのに。
翔君が撫でてくれる感触は、今も変わらずに優しい。

仕事柄、オイラは昔からスキマを見つけて居眠りするのが得意だったけど。
引退してからも昼寝が気持ち良くて、毎日の習慣になってる。

普通、年を取ると長い時間は寝てられないって、みんな言うのにね。
オイラは多分、単純に寝るのが好きなんだろうな。

翔君なんて最近は朝4時頃から起き出して、執筆とか、本を読んだりしてる。

時々、新聞が来るのが遅い、ってニュースペイパデリバリを怒ることもあるんだ。
ウチは配達が一番最後だから、仕方ないのにさ。


「…智?」


翔君がオイラを呼ぶ声がする。

ふふっ。

もうほとんど起きてるのに、気持ち良くて寝たふりをしてるのがバレてるのかも。



海のすぐ側、岬へと続くストリートの一番奥の家で、オイラ達は一緒に暮らしてる。
二匹のわんこと一緒に。

開け放った窓から入る風が気持ちいい。


「天気も良いし、ちょっと出かけるか
 Rain! Ponta!」


走ってくる二匹の爪がたてる音がして、間もなく息遣いが聞こえた。
体が大きいRainと逆に小型犬のPontaでは足音が違う。


「Rainy、郵便局に行ってくるから
智君のこと頼んだよ
悪い人が来たら守ってやってな?」


Rainは警察犬も務める犬種。
本気で噛みついたら、人間の腕を落とすことも出来るらしい。
答える声が重低音。

コッチに住むことを決めた時に、翔君が番犬にするって言って家族になった。

せわしない息遣いのPontaが、おいらは何するの?って甲高く一声吠える。


「Pontaは…そうだなぁ
Pontaの仕事は
智君が起きたら顔を舐めてあげること
あと、笑いかけてやって
Pontaの笑顔が智君は大好きだから」


わかった!ってPontaが返事をする。
昔、オイラが絵に描いた犬と同じ。
人間みたいに笑うんだ。



オイラの方が先に引退したけど。
翔君は長いこと忙しくて。
日本との行ったり来たりも多かった。

家で一人になるオイラが寂しくないように、って。
抱き上げられる小型犬を家族に加えてくれた。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ