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my destiny

第4章 Pandora's box

【翔side】

結果的には、それで良かったんだ。
ずっと、一緒に居られたんだから。

それでも、ガキだった頃の苦さが蘇ってくるようで、俺の声はどうしても素っ気なくなっていく。

真摯でありたいのと同時に、感情を悟られたくない。

宇宙飛行士と同じ名前の後輩は、その大きな目で俺の本心を探ろうとしてるみたいだ。


「櫻井、さん、は…手放せるんですか?」

「俺ぇ?」


手放すわけないだろ。


「俺は、手放さないよね」

「相手の方が苦しんでいてもですか?」

「うん、俺、酷い男だから
それに執念深いの(笑)」


誤魔化して笑うと、後輩も付き合って笑ってくれた。

智君の耳に、俺の言葉はどう響いているんだろう。
傷つけないように、言葉を選ばなくては。


「俺の場合が参考になるとは思えないけどね
俺の相手は、そういうのを求めるような人じゃないから

自分の欲がない人で、飛んで行きそうだからね
ガッチリ掴んでおかないと多分逃げられる」


神様に愛されてる人だから。
かぐや姫みたいに、月に帰りそうだ。

間違って降りて来た天女みたいな人。

帰りたいのがわかっていて、俺は、羽衣を隠す。

酷い男で結構。

一緒に居続ける為なら、どんな苦汁だって飲み込んで見せる。
それが、俺の覚悟。

隣の席に視線をやりたいのを堪えて気配に耳を澄ませる。

眠ってしまったのか、スースーという呼吸の音が聞こえた。


「…参考にします、有難うございます」


後輩は大きな目で、真っ直ぐ俺を見て言った後、智君の方を見た。


「フーマ、呼んでも良い?」

「あっ、そうですよね、すいませんっ」


気を遣って席を外したもう一人の後輩と電話で話をしていた、そのほんの僅かの間。
貴方から気が逸れた。

友達が近くで飲んでて、この後誘われてしまった、というフーマの話を聞いて、通話中のまま向い側にいた後輩にも事情を伝える。

時間も丁度良いから、このまま出ようか、ということにして智君を見ると、貴方は脇息から体を起こして俯き、両手で口を押えていた。

顔色が悪い。
咳を堪えるように、背中が小さく揺れた。

まずいっ。

俺はスマホを放り出すと、智君を抱きかかえて立たせ、引き摺りながらトイレへ駆け込んだ。






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