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注射、浣腸、聴診器、お尻ペン。

第18章 麻酔科医の術前診察

トントン




「失礼しますね」





『どうぞ』





午後になって麻酔科医が回診にやって来た。






「はじめまして。麻酔科の瀧と言います。」






笑顔で挨拶をする若い男性医者の名札と顔をちらりと見た。






どこかで会ったことがあるような。





もしかして…





『たきくん…瀧真那人くんじゃない?家が近所で、うちのお兄と同じ高校に通ってた、あの瀧くんだよね?』






「えっ?」






『私だよ。山口湊の妹の美優だよっ!』





「湊の妹の美優か!?」






『うん!』






「美優かぁ。久しぶりだな。おい。あの頃まだ小学生だったのに。大人になってきれいになったな」






『久しぶりだねーー。瀧くん!」






「でも、なんでこんなところにおまえがいるんだよ?」







『それはまぁ、いろいろあって。』






「湊はどうしてる?元気にしてるか?」






『それが、お兄は津波で行方不明なんだ…』






「湊が行方不明なのかーー?お父さんとお母さんは、助かったのか?」






『…ううん。亡くなったの。』






「そっか。それは辛かったな。うちも一緒に暮らしてた母方の祖父母が津波で死んだから、美優の辛い気持ちはよく分かる。」






『お兄にはまだ会えないけど、瀧くんに会えて本当に嬉しい。』






「俺も。生きてるといいこともあるんだな」






『…うん。本当にそうだね』






それから私たちは、夏休みに地元の川で飛び込み遊びをした話、神社のお祭りの話、花火大会の話など、震災前の懐かしい思い出を夢中で語りあっていた。


















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