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注射、浣腸、聴診器、お尻ペン。

第13章 心理的反応

翌朝、脇坂先生の回診は30分早かった。




「おはよう〜」





『おはようございます〜』





「調子はどう?顔色がいいみたいだけど体温計挟んでみようね」





なんだかドキドキ。





♪ピピピピピ





「37,2℃今日は無事クリアー」





『やったねーー!』





「待ってね。聴診しちゃうから」





胸元を少しあけてもらい聴診器を滑り込ませた。





「静かにしててね」






ゼーゼースースーという
喘鳴(ぜんめい)音が聴こえる。




丁寧に聴診を続ける。





『先生?』




「胸の音が良くないから今日は無理しないで寝てた方がいい。それで明日検査しないと」





『でも熱ないし、どこも苦しくないよ』






そんなのおかしいでしょ。





『本当に本当に苦しくないもん。
お家に帰りたい』







「帰りたいのはわかるけど許可出せない」






先生は、きっぱりはっきり「駄目だ」と言った。






決して意地悪じゃないことは、わかってたけど悔しいことに変わりなかった。





『わかったよ。もういい』





「外出のことは少し様子をみてからにしよう。来週とか再来週もあるんだから」






『もういい。わかったから』





「元々そういう約束だったでしょう。不貞腐れるのはおかしいよ」







『だからもういいんだってば』






「透析患者さんは心臓病を併発する可能性が高いんだ。気を付けないと」





『ああ、そうですか。それじゃ気を付けますね』





「狭心症や心筋梗塞を甘くみちゃいけないよ」





『甘くみないから先生は帰って。今日もオフなんでしょ?』





「帰っていいの?」





『どうぞ。先生が帰ったら退屈だけど』






「入院生活はね、少し退屈なくらいでちょうどいいんだよ。少しの余裕がとっても大切だったりするんだから」






『はいはい。今日は売店で雑誌でも買ってきてベッドでのんびりしてます』





「それがいいね。じゃあ僕はこれで」






本当に帰っちゃった。





脇坂先生がオフの日に何をして過ごすのか?
誰と会うのか?すごく気になるのに。




会えるのは、また明日。



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