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第1章 葬儀屋サイコメトリ

【1】

 それは十二月の、一週目の土曜日のことだった。
「──は!?  なんで俺が!」
「しょうがないでしょー! お父さんギックリ腰やっちゃったんだもん、タダ飯食らってるニートの分際で文句言えた立場か、とっとと行け!」
「ハイ、カシコマリマシタオネエサマ」
「よろしい」
昨夜徹夜をしたにも関わらず朝早くから姉に叩き起こされた春樹は、朝食を取る間もなく突然家業の手伝いを命じられて渋々それを引き受けた。
 (……ニートじゃないし。ただちょっと大学に落ちて一浪中の浪人生だし。つか、これって脅されるほどの朝飯か?)
と密かに心の中で呟きながら、天使のような笑みを浮かべる姉・冬華(ふゆか)に押し付けられた腕の中のものを見れば、見慣れた作業着と朝食代わりのゼリー飲料。
 ゼリー飲料はバナナ味で、地味な深紺の作業着の左ポケットには「深町葬儀社」と刺繍されていた。
 (師走の一番大事な時期に……いや、でも別に……いいか)
まだ明確にやりたいことがあるわけでもない。名前だけで選んだ大学への受験に、どれだけ背負い込む必要があるだろう。
(なるほどニートだ)
春樹はため息をつきながらも今更姉に逆らう気もなく、手早く着替えると店の前で待っていてくれた会社の白いワゴン車に乗り込む。

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