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toy box

第2章 猫描戯画

「まだ父が若い頃の話です。では私もほんの少し、父に至れたのですね……!」
絵が抜け出し口を利くというとんでもない奇譚を、平然と絵の才とひとつにしてしまうこの底知れない器には、もはや感服するしかなかった。
 世にはいくつか、おどろおどろしい怪異をまとう絵があるとは聞くが──そんな幽鬼のたぐいではなく、道を極めんとして一筆に心魂を注ぎ、描いたものを世に顕すという。神にも通ずる技。
「お妙殿はすごいお方であったのだな……」
しかし妙は複雑そうに、頭を横に振って足元の那岐を指差してみせた。
「妙心の、絵です」
「は?」
「那岐と那美。神代の夫婦神から名を頂戴した、つがいの白猫の絵でした。あいにく那美はある神社のお祭りの日にぱたりと姿を消してしまって。きっと神様に気に入られて常世で可愛がられているだろうと、父は常々申しておりました」
「いや──しかし、那岐は干物を」
「はあ……私もまだまだ、未熟者です」
それに那岐が、にゃあと頷く。
 藤次郎はしばらく唖然とその白猫を眺めていたが、やがて何か召し上がっていきますかと妙に声を掛けられるとはっと我に返り、財布の代わりに小さな小さな、顔料の入った壺を取り出したのだった。


(終)
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