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第1章 葬儀屋サイコメトリ


 あれから春樹は家族と話し合い、不誠実な受験勉強を資格のためのものへとスライドすると、葬儀も遺品整理の仕事も、現場に出る機会を増やしてもらっていた。年が開けて春が来たら、新入社員として扱ってほしいと──春樹は頭を下げて、そう「社長」に希望したのだ。
「……あんた本気? ただ受験から逃げたいとか、そんな気持ちで言ってんなら家から閉め出すよ?」
そう言って両親以上に厳しい顔をしていた冬華も、春樹について回るモモと、それをかいがいしく世話をする弟を見て──何か感じ入るものがあったのだろうとその心境の変化を察し、一番の応援者になることを約束してくれた。

 ──そうして車は今日もまた、見知らぬ一軒の家の前で止まる。
「それじゃあ、手分けして始めようか」
「はい」
春樹はモモを肩に乗せ、また色々な思い出を宿した部屋を見回しこっそり呟いた。
「モモさん、今日もお願いします」
『うむ。たとえゴミ袋の中であろうと、何か感じるモノがあればすぐに教えてやる。さて、今日は何を視るやら──』
「覗き見はダメ」
そうして春樹は軍手をポケットに入れたまま、遺品整理の仕事を始める。
 もうなにもかも、無造作にゴミ袋に詰めていくわけではない──
 その間に、もしモモのように捨てられたり忘れられている思い出が遺されているならば……それを優しい形のまま、もう一度ご遺族に届けられるように。その優しい思い出ごと、その主を弔えるように。

 大切にしようと、ひそやかに、そう思いながら。


(終)

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