
兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第12章 血液はいつかの鉄棒の味がする
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まずは、悠に謝ろう。
そう決めて悠の部屋に行った。
いつもはノックなんてしないで突撃しては、「ノックしてっていってんじゃん!」と軽く蹴りを入れられるのがお約束だけど。
今日ばかりは、それも気が引けてしまって。
トントン、トン…と遠慮がちに小さくドアを叩いた。すると少しして、「なぁに」と小さい子をあやすみたいな優しい返事がした。
「悠・・・」
中に入ると机に向かって、こっちには背中を向けたいつもの悠が居た。
「悠、あのさ…ごめん」
「…っ」
首だけで悠がこっちを見たから、そっと手で頬を掴んだ。オレを見上げる黒目がコロコロと焦ったように動いていた。
「やりたいこと見つけたんだね、おめでとう。
それで、あの、オレずっと悠を守ってるつもりでいたんだ。そんな自分に安心してた。でも、悠が自分でやりたいことを見つけて、オレの手の届かない所に行っちゃうって、あのCM見て思って…だから、オレ寂しいって思った」
自分でも何を言いたいのか、何を言っているのかよく分からなかった。キョトン、と首を傾げた悠はオレよりこの言葉の意味を分からないでいるだろう。
「何それ」
「ごめん、日本語おかしかったよね」
「違う。何でそういうこと言うの。鶫くんはいつも俺のこと守ってくれてたよ。自分だって怖いのに近所の犬に追いかけられた時、追い払ってくれた。停電の時は真っ先に俺に声掛けてくれて、手握ってくれた。守ってるつもり、なんてそれこそ寂しいこと言わないでよ」
オレ、悠のこと守れてた?兄さんにしてきてもらったこと、全部悠にしてあげられてた?
なんて台詞、聞くまでもないみたいだ。真っ直ぐな目で悠がオレを見てる。
そうだ、この目はオレがずっと兄さんに向けてきた目。
「鶫くんは、ずっと俺の兄ちゃんだったよ。それはこれからも変わらないし、もし別々の場所で暮らすことになっても、届く所にいるよ。CMでも言ってたじゃん。"大切な人ともっと近くに"って。届くよ、どんな形になるかは分かんないけど。少なくとも俺はどこに居ても鶫くんに守られてるなぁって感じるよ」
『だって、ほら』と見せられたスマホのトーク履歴。
「鶫くん、いつも俺のこと心配して連絡くれるじゃん。部屋でゲームしてるだけなのに"温かくして風邪ひかないように!"とかさ。俺めっちゃ大事にされてんだなって思うよ」
