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その恋を残して

第6章 ここにいるよ


「お待たせしました……松名くん」

 蒼空は息を切らせながら、言う。

「そんなに慌てて、どうしたの?」

「早く……松名くんに、会いたくて」

 ハアハアと息をしながら、そんな風に言うのは反則だろう……。

「ろ、廊下を走っちゃ……駄目じゃん」

 そんなことを言いつつ、外の景色に目を向けた。照れて赤くなった顔を、必死に誤魔化そうとする。

「はい。気をつけます」

 蒼空は窓際にいる俺に並びかけた。俺と蒼空は暫くの間、傾く夕陽が照らすグラウンドを眺める。そこには運動部の連中が、練習している姿があった。

「……」

「……」

 そんな光景を見ながら黙る俺たち。でも、会話が無いことに焦ったりしない。ゆっくりと流れる時間の中、二人で並んでいる。それだけのことが、とても心地よかった。

 だけど――永遠にそうしてはいられない。

「そろそろ、帰ろっか」

 俺が鞄のある自分の席に向う――その時だ。

「そ、蒼空……?」

 突然、蒼空が背中から抱きついてきた。

「どうか……したの?」

 俺は困惑しながらも、顔を見ようと振り返ろうとするけど――


 ギュッ――!


 蒼空の両腕がそれをさせずに、更に強く、背中にしがみついている。

 そうしてから――


「もっと……一緒にいたいです」


 背中に顔を埋めながら、まるで振動で伝えるように、蒼空は言った。そして、続けて――


「――ずっと」


 そう呟いた後――自分でも驚いたように、俺からパッと身体を離した。

「ごめんなさい。私、どうしてこんなこと……」

「蒼空……?」

「な、なんでも……ちょっとだけ、ワガママを言ってみたくなって……きっと、それだけのことですから」

 その時、蒼空の口元は笑っていたけれど。少し俯き加減にして前髪に隠れたその瞳を、俺には見せなかった。

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